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『ぼくたちは戦場で育った』

ヤスミンコ・ハリロビッチ 著

集英社インターナショナル

 

 1992年から3年半続いたボスニア戦争。首都サラエボだけで11000人以上が死亡、そのうち1600人が子どもでした。

 

 その記憶・記録を残すため、ヤスミンコ・ハリロビッチくんは「あなたにとって戦時下の子ども時代とは何でしたか?」と、当時の子どもたちにインターネットでアンケートを取り、160字以内(ショートメールの文字数)で答えてもらいました。

 

 回答は1000人以上から寄せられ、「ぼくたちは戦場で育った」(角田光代訳・千田善監修・集英社インターナショナル刊)という1冊の本になりました。

 

 おぼえていること。 「ママが死んだよ」とパパが言った夜。 それから、「きみのパパが死んだよ」という言葉。 戦争の馬鹿野郎。 ──(ミレラ・女 1981年生まれ)

 

 ぼくたちは戦争ではなく、生活を選んだ。 笑い、遊ぶことで、戦争中、少しでもましな幼少期を送ろうとした。 ──(エディン・男 1984年生まれ)

 

 ほかにも、家族や友だちとの別れ、地下の避難シェルターでのくらし、本を燃やして暖を取った冬の日のこと──というような「つぶやき」が1000以上おさめられています。暗い話ばかりでなく、銃弾が当たらない中庭で遊んだこと、人道援助の中に入っていたお菓子など、子どもらしい(そして、かなりたくましい)エピソードは、ある意味で型にはまらない「戦争のリアリティ」を伝えてくれます。

 

 本を作る上で、ヤスミンコくんにとって意外なことがありました。

 

 160字のメッセージを送ってくれた人に、お礼のメールを返すと、多くの人が、160字ではおさまりきらなかった記憶や思い出について、その何倍、何十倍の長さのメールを返信してきたのです。

 

 そのエピソードを紹介したい、当時の写真があったら貸してほしい──などなど、ヤスミンコくんは結果的に数百人の人びとと「文通」することになりました。そのため、はじめは数カ月でできると思っていたのに、結局3年近くもかかってしまったのだそうです。

 

 ヤスミンコくんが印象に残っているメールがあります。そこには、こう書いてありました。

 

 「この160字のメッセージを書こうとして、戦争のことを初めて正面から思い出しました。そのおかげで、それまで毎晩のように見ていた悪い夢を最近では見なくなりました。ありがとう、ヤスミンコ様」

 

 「ぼくたちは戦場で育った」という本には、多くの人びとのストーリーが詰まっているのです。

 

(国際ジャーナリスト・千田善)

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