「戦争犯罪」を裁くことの難しさ
- sfp2000
- 2015年2月3日
- 読了時間: 4分
第4シリーズの第2回は、舞台をオランダのハーグに移します。
ハーグには、日本人も判事を務めた旧ユーゴスラビアにおける戦争犯罪を裁く国際司法裁判所があります。
今、この裁判所では、ボスニア・ヘルツェゴビナの戦争のメインアクターとも言える人物が判決の時を待っています。
ラドバン・カラジッチ、戦争中、セルビア人共和国の大統領としてセルビア人の保護と領土保全を理由にサラエヴォ郊外の高原パレから部隊を指揮した大物です。
今日の記事のポイントです。
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昨年10月の最終弁論では、「この法廷全体がセルビア人に責任を転嫁するためのものだ」「セルビア人は厳しい刑に処せられ、セルビア人相手の犯罪の実行犯たちは多くが釈放された」と批判した。
セルビア人の一部に今も残る、自分たちだけを不当に悪玉扱いする「勝者の裁き」への反発を体現した形だった。
その主張は、はたして妥当なのだろうか。
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(2月3日付朝日新聞夕刊より)
カラジッチ被告が言う通り、セルビアのミロシェビッチ大統領、そして、最高軍司令官だったラトコ・ムラジッチをはじめとして、戦争の表舞台のアクターだった多くのセルビア人は戦争犯罪を問われ、法によって裁かれるか、その途上でこの世を去りました。にもかかわらず、クロアチア人側が起こした戦争犯罪という点でフラニョ・トゥジマン元大統領や、イスラム教徒側が起こした戦争犯罪という点でアリヤ・イゼトベゴビッチ元大統領が戦争犯罪法廷に呼ばれることはありませんでした。そして、もう二人がこの世を去った以上、それはもう未来永劫ありません。
そう考えると、戦争犯罪というものを公平にさばくことは極めて難しいことであるといえます。
セルビア系のならず者たちが、人の命や尊厳を戦争中に弄び、多くの悲劇を起こしたことは事実です。しかし、クロアチア系のならず者たちも、イスラム教徒系のならず者たちも、人の命や尊厳を戦争中に蹂躙し、多くの惨劇を人々の目に焼き付けたことも事実です。
その背後に、ミロシェビッチやカラジッチがいたと断定するのだとしたら、トゥジマンやイゼトベゴビッチがいなかったと断定することがどうしてできるのでしょうか。
この不公平さ、腑に落ちないロードマップにボスニア・ヘルツェゴビナの人々は深く傷つけられているのです。
しかしです。
カラジッチが正当化される理由は微塵もありません。
それは、彼が戦争犯罪を犯したかどうかではありません。
それは、彼が紛れもなく戦争中にセルビア人の人々の運命を握る立場にあったからです。
私のセルビア人の友人たちに、戦争中は誰がボスだったのかと聞くと、皆口をそろえて、
「ラドバン(カラジッチ)!」
と答えます。
そうです。
彼は、戦争中どころか、戦争前からセルビア人の人々だけでなく、同じボスニア・ヘルツェゴビナに住む人々の人生を左右しかねない立場にいたのです。
その立場にありながら、戦争を避けることができず、また、戦争どころか、ならず者たちが好き放題に人の道を外れた行為を繰り返す世の中を作り出しても止められなかった、もしくは、止めようとしなかったのです。
その責任は重大です。
戦争犯罪という前に、彼が政治家である以上、政治的な責任という意味で、大きな罪を背負っているはずです。
守るべき人々の命を救うどころか、その命を奪った戦争を止められず、拡大させてしまったのですから。
いくら、今になって「平和を訴えてきた」と言ったとしても、私たちが判断するのは結果です。
彼が導いた政治の道の結果は、最悪だったのです。
だからこそ、彼は逃亡する前に、政治家として責任を取るべきなのです。
未だに、神のように崇められ、ムラジッチ同様に彼の写真が印刷されたTシャツがセルビア人共和国側の市場では目にすることがあります。
確かに、カラジッチはボスだった。
確かに、トゥジマンはボスだった。
確かに、イゼトベゴビッチはボスだった。
でも、彼らが導いた結果は最悪だった。
それは、民族を問わず、ボスニア・ヘルツェゴビナの人々が受け入れるべきことだと思います。

詳しくはこちら→http://digital.asahi.com/articles/DA3S11584605.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11584605
♪追記♪
ザグレブ在住でクロアチア中心に人々の暮らしや豊かな文化の数々を紹介してくれている小坂井真美さんが、本当に心打たれるコラムを書いてくれています。
テーマも、私のコラム同様に、旧ユーゴスラビア戦争犯罪法廷です。
戦争が終結しようと、政治の舞台では未だに「国境」、「民族」をつくづく感じさせられることばかりが繰り広げられているのです。
しかし、そんな中でも自分たちの信じるものを大切にして生きている人々の姿を感じ、ぼくたちはただただ深く深く頷くしかありません。

(出典:Danas.hr)
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